学会紹介
設立趣意

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わが国教育の危機的状況が叫ばれてからすでに久しい。教育の現状に対する再検討とそれに基づく教育改革は、国民各層のいわば必須の要請として、今やわが国の国民的課題となっており、初等中等教育から高等教育に至るまで、わが国教育の全般的見直しを迫られていることは周知のとおりである。

しかし、教育は、どのように制度・機構・内容が改革されても、帰するところは、教える者と教えられる者との、日常的な、人間的ないし人格的触れ合いを基礎にした営為なしに、その結実・成果を見出し得ないことは言うまでもない。今日における教育の危機的状況の根本原因のひとつは、実にこの教師と児童・生徒との人間的・人格的交流の問題に淵源していることも覆うべからざる事実である。

教育は、単に知識や技能の伝授・習得に終わるものでなく、教育基本法第一条にいうごとく、「人格の完成」をもってその究極の目的とするからである。

教育の目的が「人格の完成」にありとするとき、ここに看過し得ないもうひとつの要件がある。それは、家庭における子供の人間形成の問題である。思うに、学校教育が任される児童・生徒のいわゆるスクールライフは、一日二十四時間の生活時間のうち、わずか七〜八時間に過ぎず、他は殆ど家庭における生活に占められている。かかる生活時間の大まかな区分を見ても、家庭における子供の人間的・人格的形成の問題、これを端的に家庭教育というならば、それは学校教育に優るとも劣らない重要な課題であるといってよい。

しかるに、今日におけるわが国の家庭は、社会諸状況の急激な変化にともない、人間の家庭生活維持にかかわる様々な問題や課題を内包し、子供の家庭教育にも影響を与えつつある。いうまでもなく、人間の生活は、社会的・公共的生活と、家庭的・私人的生活とに区分される。円満にして平安なる家庭生活があって、人は社会的・公共的生活に、職業等を通じて参加し、個人として個性を発揮しつつ、その使命を十分に果たすことができる。

今日の国民的課題である学校教育の改善も、帰するところは児童・生徒の人間的・人格的形成に資するものである以上、家庭教育も優にその最重要なる一半の責任を果たすべき使命がある。とすれば、家庭教育に関する様々な問題を解明・検討し、家庭における子供の人間形成に資する諸方途を見出すことは、これまた、現下わが国の教育状況の中で極めて重要な課題であるといわねばならない。

ところで、家庭における子供の人間形成は、学校教育と同様、知・徳・体の全般にかかわる。したがって、今後の家庭教育のあり方を検討するためには、家庭ないし家族とは何か、親子・兄弟等の人間関係はいかにあるべきか、子供の心身の全人的発達をいかに促すか、学校教育との関連はいかにあるべきか、等々、実生活における体験・反省や人文・社会諸科学をはじめ医学・体育学・家政学等の諸学問による学際的研究とともに、さらに学校教育の実践的研究等とも密接なる連繋をはかりつつ、推進する必要があろう。

以上のような趣意により、我々はここに「日本家庭教育学会」を設立し、所期の目的を達成するため、広く各界・各位に呼びかけ、家庭教育に関する理論的・実践的研究を進めようとする。我々はまた、特定の政治的ないしイデオロギー的傾向を一切排し、純粋にわが国の家庭教育のあり方を理論と実践の両面から探求し、研究討議をする学会とすることを期待している。

上の趣意に賛同される各位が奮って参加されることを切望する次第である。